我々が中小製造業のお客様から産業用ロボットの導入相談を受ける際、「産業用ロボットは大手企業のためのものだし、多品種少量生産の自社では導入できないよ」という言葉を頂くことがあるので、今回は「産業用ロボットは大手企業のためのもの」は本当か?というテーマで記事を書いていきます。

産業用ロボットは本当に大手企業のためのものなのか?

さて、上記でも書いた通り、産業用ロボットは本当に大手企業のためのものでしょうか?
この「産業用ロボットは大手企業のもの」という認識について、なぜそういう認識を持つのか深堀していくと、大体下記のような内容に行き着きます。


  1. 少品種大量生産じゃないと産業用ロボットは使えない
  2. 産業用ロボットは導入価格が高い
  3. ベテランじゃないと対応できない、技術力の高いものを扱っている

実はこれらの内容はどれも半分合っていて、半分は間違いです。
その内容を下記で一つずつ解説していきます。

1.少品種大量生産じゃないと産業用ロボットは使えない

さて、まず必ず出てくる話が「少品種大量生産じゃないと産業用ロボットは使えない」というものです。
言い換えると、「多品種少量生産では産業用ロボットは使えない」ということですね。

この話が出てくるとき、初めて産業用ロボットを導入する方のほとんどが持つ勘違いが在る場合が多いです。
その勘違いというのは産業用ロボットは1度導入してしまえば勝手に動き続けてくれるものであるというものです。
つまり、産業用ロボットは導入後手がかからない魔法の設備であるという勘違いです。

実際、産業用ロボットは導入後手がかからない魔法の設備ではなく、導入後程手がかかる設備です。
この認識のズレが「少品種大量生産こそ産業用ロボットを導入できる」という勘違いにつながっているように思います。

イメージするならば、主体性はゼロだが教えたことは完璧にこなす従業員という認識の方が正しいです。

新しく従業員を雇ったとき、必ず作業を教えると思いますが、産業用ロボットの場合は文字通り一挙手一投足作業を教えないと動きません。
ワークが変われば新しいワークの作業を教えないといけないし、少しでも距離が変わればその距離での作業を教えないといけません。

これだけ聞くとものすごく手間がかかる従業員ですが、なぜ誰もが産業用ロボットを入れようとするかというと、その作業の完璧さにあります。
1度でも作業を教えてしまえば、どの従業員よりも正確に、かつ長時間働いてくれるというのが産業用ロボットの良いところです。
また、記憶力も完璧で、過去に教えた作業は何度でも記憶を呼び起こし、同じ作業をすることが出来ますし、似た作業であれば少しの修正で似たような作業をすることが出来ます。
また、人間の従業員と最も違うのは、仮に産業用ロボットが壊れても、他の産業用ロボットを使えば教えたことをまた行ってくれるという点です。

このように、他の設備と産業用ロボットの違いを理解しておくと、産業用ロボットは少品種大量生産の大手企業だけでなく、動きを教える環境さえ整っていれば、多品種少量の中小企業でも導入することが出来ます。

「とはいっても、作業を産業用ロボットに教える従業員がいないよ」という声も聞こえてきそうですが、産業用ロボットは若手人材の採用につながっているケースも多くあります。
ただ、今回は話が反れるので、一旦ここまでとさせてください。

2.産業用ロボットは導入価格が高い

この話が出てくるとき、「産業用ロボットはなんでもできる魔法の機械である!」という認識を持っている方が多いです。

例えば、自社の品種数が1000品種あったとして、産業用ロボットがこの1000品種全てに対応しないと導入しない!という判断をする方もいます。
この1000品種に対応させるには、産業用ロボットに1000種類の動きを覚えさせるか、カメラとAIシステムを使って動きを考えさせるかしないといけないので、当然のことながら価格は高くなります。

産業用ロボットを導入するときは、必ず対象となるワークを絞り、小さい規模から導入していくことが導入成功のための正攻法です。

今一度、上記の1000種類のワークについて考えてみます。

仮に自社で対応している品種数が1000種類だったとしても、多くの場合毎月対応しているリピート品は数十種類だと思います。
今回の例では、分かりやすく仮に50種類としておきます。
産業用ロボットで対応させるのは、この50種類がまず優先となります。

次に、その中でも売上の大半を占める品種数は更に少なくなると思います。
今回の例では、分かりやすく仮に10種類が8割の売上を作っているとしておきます。

そうすると、右の図のように、全ての品種が仮に1000あっても、ターゲットとなる品種は50種類で、最初に動きを教えておくべき品種は10種類であることが分かります。

この売上の大半を占める10種類は産業用ロボット導入時にロボットSIerにお願いして動きを教えておいてもらいます。
そして、50種類のうち、動きを覚えていない40種類については、練習として自社で動きを教えるようにします。

これは、作業においても言えることです。

右図のように、全ての作業を産業用ロボットに行わせようと考えるのではなく、初回はB作業のみに絞って産業用ロボットを導入し、A作業、C作業は産業用ロボットに慣れてきたら徐々に拡張していく、という方法をとるのがベストです。

このように、産業用ロボット導入時、一度に1000種類のワークを教えたり、一度に全ての作業を対応させたりするのではなく、必要な部分を切り取って少しずつ導入していくことで、価格を抑えながら必要な箇所だけ産業用ロボットを導入していくことが出来るようになります

3.ベテランじゃないと対応できない、技術力の高いものを扱っている

そして、大手企業じゃないと産業用ロボットを導入できないと考える理由でよく挙がってくる最後の理由は「うちはベテランじゃないとできない作業だから」というものです。

確かに、中には本当に技術力が必要で、産業用ロボットにはどう考えても対応させられないものもあります。
例えば、ものすごく細かい動きが必要で超精密加工を必要とする作業や、細かい部品を産業用ロボットに持たせないといけないという作業については産業用ロボットの導入が難しいものが多いです。

この時に自分に問いかけるべきなのが「ベテランじゃなくてもできる作業も含まれているのではないか?」ということです。

ベテランの作業員は多くの場合、自社に利益をもたらす高付加価値の作業をしていることと思います。
この場合、確かにそのベテランで無いとできない作業もあると思いますが、実はベテランじゃなくてもできる作業が内包されていることも多くあります。

その作業を産業用ロボットを使ってベテランから取っ払ってあげることにより、ベテランは更に高付加価値の作業に専念することが出来、自社の利益も上がります。

最初から「うちの作業はベテランしかできないから」と決めつけず、もしそうだとするならばどのようにすればベテランの方に更にベテランらしい仕事をしてもらえるのかを考えることが大切です。

つまり、産業用ロボットは大手企業のためのものではなく、多品種少量生産の中小製造業でも十分に活用できる

上記3項目について長文で説明してきましたが、つまり、産業用ロボットは大手企業のためのものではなく、多品種少量生産の中小製造業でも十分に活用できます。

「自社は多品種少量生産だから」「自社は中小製造業だから」と最初から決めつけず、ぜひ今一度、どうすれば産業用ロボットの導入が出来るのか?を考えてみてはいかがでしょうか。