度々話題となる跡継ぎ、後継者不足の問題。経営者の方や経営に関わる方にとっては明日は我が身の問題であり、事業売却(M&A)などあらゆるケースを想定されている方が多いと思います。

今回は前回に引き続き、事業承継に関する法律的な問題や注意点などを弁護士の方にお聞きしましたので、皆様にお伝えします。特に製造業、工場経営に特化した内容となっておりますので、ぜひご覧ください。

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回答

桃尾・松尾・難波法律事務所
弁護士 角元洋利氏、高石直樹氏

Q4:当社では、親族の後継者が見つからないため、会社関係者(役員・従業員)を承継者としたいと考えています。役員・従業員を承継者としたいと考えています。どのような方法があり、どのような点に気をつければよいですか?

  • 親族に承継する場合で説明した、相続を除く方法で、株式等を(生前又は死因)贈与、売買又は遺贈することになります。親族への承継と同様に、経営者が会社に貸し付けている貸付金や不動産等や、会社の債務のための借入金、個人保証や担保提供等の処理も併せて行う必要があります。
    • 後継者が親族ではない役員・従業員である場合には、株式等を売買する場合が多いため、後継者である役員・従業員が取得資金をどのように調達するかが重要となります。
    • 資金調達の手法としては、金融機関からの借り入れや後継者候補の役員報酬の引き上げなどが一般的です。なお、経営承継円滑化法に基づく金融支援では、親族内承継に限らず、親族外への承継でも利用できます。

Q5:当社では、親族や会社関係者の後継者が見つからないため、社外の第三者に承継したいと考えています。どのような方法があり、どのような点に気をつければよいですか?

  • 親族や社内に後継者が見付からない場合でも、廃業することなく、外部の承継候補者を探し、株式譲渡や事業譲渡等(M&A等)をすることもできます。[1]
    • 経営者にとっては会社売却の利益を得ることができるというメリットもあります。もっとも、社外の第三者とのM&A等を成功させるためには、買い手にとって魅力的な会社とするため、本業の強化や内部統制体制の構築により、企業価値を十分に高めておくことが望まれます。
    • M&Aは、買い手とのマッチング・企業価値の算定・契約手続など、専門的なノウハウが必要とされます。そのため、一般に専門の民間業者、金融機関、士業等専門家などのサポートを受けながら進めます。

なお、M&Aの相談先として、国の運営する「事業承継・引継ぎ支援センター」[2]が各都道府県に設置されており、社外への引継ぎに関する窓口相談、マッチング支援などの事業を行っています。


[1] 中小企業庁「中小M&Aハンドブック」参照

https://www.meti.go.jp/press/2020/09/20200904001/20200904001-2.pdf

[2] https://shoukei.smrj.go.jp/

Q6:中小企業の事業承継の支援を行ってくれる、経営承継円滑化法という法律があると聞きました。どのような法律でしょうか。当社は利用できるのでしょうか?

  • 中小企業の事業承継を総合的に支援する「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(経営承継円滑化法)[1]においては、①遺留分に関する民法の特例[2]、②事業承継資金等を確保するための金融支援[3]、③事業承継に伴う税負担の軽減する特例措置[4]、④所在不明株主に関する会社法の特例措置[5]が定められています。
    • これらの特例措置を受けるためには、各措置に応じた所定の適用要件(継続して事業を行っている中小企業であること等)を満たしていることを、会社の本店所在地の各都道府県(②から④まで)又は中小企業庁(①)で確認や認定等をしてもらう必要があります。なお、①遺留分に関する民法の特例については、「推定相続人全員の合意」を得て、「家庭裁判所の許可」 を受けることも必要です。

[1] 中小企業庁「経営承継円滑化法の概要」参照(https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/shoukei_enkatsu/gaiyou.pdf)参照

[2]中小企業庁「事業承継を円滑に行うための遺留分に関する民法の特例」参照(https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/shoukei_enkatsu/minpou_pamphlet.pdf

後継者及び先代経営者の推定相続人全員の合意の上で、先代経営者から後継者に贈与等された自社株式の価額について、
 ①遺留分を算定するための財産の価額から除外(除外合意)
 ②遺留分を算定するための財産の価額に算入する価額を合意時の時価に固定(固定合意)
をすることができます。これにより、①では、後継者が先代経営者から贈与等によって取得した自社株式の価額について、他の相続人は遺留分の主張ができなくなるので、相続紛争のリスクを抑えつつ、後継者に対して集中的に株式を承継させることができます。また、②では、自社株式の価額が上昇しても遺留分の額に影響しないことから、後継者の経営努力により株式価値が増加しても、相続時に想定外の遺留分の主張を受けることがなくなります。

[3] 中小企業庁「事業承継における融資・保証制度」参照(https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/shoukei_enkatsu/kinyushien_pamphlet.pdf

[4] 国税庁「非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(法人版事業承継税制)のあらまし」参照(https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/0022005-016_01.pdf

[5] 中小企業庁「所在不明株主に関する会社法の特例」参照(https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/shoukei_enkatsu/kaisha-hou_pamphlet.pdf

終わりに

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