ビジョンはどうやって創出するのか。前回の記事では工場経営変革のステップについて、見てきました。その中では、ビジョンの提示が大切という話が出てきました。

企業が変革後になるべき姿が明確に描かれないと、プロジェクトメンバーである従業員各人が変革に向けて同じ方向を向いて動き出せません。

もっとも、工場経営変革のステップの中でも、一番難しいと感じた方が多いのではないでしょうか。

どんなビジョンを描くかで変革の方向性が決まり、企業の将来あるべき姿が決まります。

一見違うように思えても、今現在や過去の姿と同じでは意味がありません。

特に昨今のような、先行き不透明な現代においては、ビジョンの策定に難しさを感じる経営者も多いはずです。

そこで、今回はビジョンを考えるヒントについてご紹介します。

ビジョンは新しい価値を生み出すことである

ビジョンを描くには、工場経営の変革にあたって描くべきビジョンが何であるかをしっかり理解しなくてはなりません。

ビジョンにはさまざまな定義がありますが、この記事ではビジョンとは、新しい価値を生み出すことと定義します。

今抱えている課題感を分析するとともに、変化の激しい時代に将来生き残りを図り、持続的成長を遂げていくうえで、過去の伝統や文化、慣習や風土などにとらわれず、新たな価値を生み出し、企業が向かうべき新たな姿を導き出ださなくてはなりません。

新しい価値を生み出すイノベーション論を参考にしよう

もっとも、新しい価値を生み出すのは、本当に大変な取り組みです。

人間は過去の記憶や過去の成功などに無意識的にとらわれてしまうことも多く、新しい価値を生み出したように思えても、過去の姿を別の面から見ただけのことも多いためです。

そこで、経営的な革新のバイブルとして知られる、シュンペーターのイノベーション理論を参考にしてみましょう。

イノベーションには5つの方向性がある

シュンペーターのイノベーション理論においては、イノベーションには5つの方向性があると言われています。

それは以下で挙げる①新しい製品/サービスの創出②新しい生産方法の導入③新しい市場への参入④新しい資源の獲得⑤新しい組織の実現の5つです。

それぞれについて、詳しく見ていきましょう。

①新しい製品/サービスの創出

新しい製品や新たなサービスを開発して、市場に出すことです。

これによって、これまで業界の市場で大きなシェアを持っていた企業に追いついたり、追い越したり、業界でのポジションを高めることでイノベーションを図ります。

これまでにない新しい製品やサービスを創り出すことで、新たなファンの獲得や自社の製品やサービスの愛用者を増やしていくことで、変革に結びつきます。

②新しい生産方法の導入

工場の製造ラインの見直しを図ることや新しい生産方法に変革することです。

少子高齢化による人材不足の時代にあっては、工場における業務効率のアップや自動化、生産性の向上は不可欠です。

製造ロボットの導入やオートメーション化、AIの活用などを通じて、製造の効率化を図る一方、人材をより人の力や知識、判断力や創造力が必要な分野に集中投下するような新たな生産方法を導入します。

③新しい市場への参入

時代の変化が激しく、スピードが加速しており、市場のニーズもどんどん変化しています。

少子高齢化やライフスタイルの多様化で、横並びの大量生産の時代から、一人ひとりのニーズに合わせた少量多品種生産も求められるようになりました。

また、少子高齢化で市場が縮小し続ける国内市場から、海外市場への進出を考えることも一つの方法です。

さらに、日本社会が抱える課題に応えるべく、高齢者向けの市場や介護関連のビジネスに進出する企業や少子化対策に役立つ市場の開拓を図る企業も増えています。

異業種への参入、全く新たな市場の形成、海外市場への参入など、これまで自社が参入していなかった新たな市場を開拓することもイノベーションの一つです。

④新しい資源の獲得

地球温暖化の深刻化や世界の人口爆発による特定の資源の減少や枯渇、高騰などに伴い、現在ある資源が使えなくなるリスクやコストがかかりすぎ、これまでのように使えなくなるリスクも増えてきました。

また、地球温暖化に影響を与える、二酸化炭素の排出量が多い資源を使うより、カーボンニュートラルな資源を使うことで、社会的な信用を高め、市場シェアを伸ばせることも考えられます。

そこで、商品の製造にあたり、新しい資源を検討し、獲得に乗り出し、実際に商品開発に活かしていくことも、イノベーションにつながります。

⑤新しい組織の実現

工場経営変革のステップでも紹介した、意識変革をするために最も重要となるイノベーションが、新しい組織の実現です。

人材を入れ替えることなく、意識や価値観、仕事のやり方などを変革することで、新たな組織を創り出し、将来に勝ち抜く企業として育てていくことが大切です。

5つの方向性を2つに分類

これまで見てきた5つのイノベーションの方向性は、さらに2つに分類できます。

・社外と社内の分類

それは社外と社内で分類して、関係性を見ながら、関連性や影響を分析しつつ、成し遂げていくという方法です。

-社外

社外向けとしては、①新しい製品/サービスの創出と③新しい市場への参入の2つが該当します。

それぞれ、どう社外とかかわるのか見ていきましょう。

①新しい製品/サービスの創出

新しい製品やサービスの創出にあたり、社内で従業員の意見で考えるのではなく、消費者やユーザーの声をもとに製品開発に活かすことです。

川上からではなく、川下からの製品開発をすることで、ニーズに合った製品をリリースすることができ、新たなファンの獲得やシェアの拡大、売上増大が目指せます。

③新しい市場への参入

新しい市場への参入も、社外に向けたアクションです。

どの市場に将来性があるのか、時代や環境は何を求めているのかを、国内外の幅広い市場ニーズから分析して、新たな市場を開拓します。

-社内

社内におけるイノベーションとしては、②新しい生産方法の導入④新しい資源の獲得⑤新しい組織の実現があります。

それぞれ見ておきましょう。

②新しい生産方法の導入

現在の生産方式から課題を分析し、将来のビジョンを達成するための生産の効率化や生産性アップ、人出不足の補填や人件費カットのために、どのような生産方式をとるべきか考えます。

④新しい資源の獲得

国内外の企業に今、一番に求められている地球温暖化防止や枯渇する有限資源からのシフト、高騰する原材料価格の見直しなどの観点から、カーボンニュートラルの資源やSDGSにつながる資源の獲得に向けた検討と取り組みが必要です。

⑤新しい組織の実現

これは、工場経営変革のステップを踏まえ、経営者から全従業員が一丸となって、同じ方向を向いて、これまでとは価値観の異なる、これからの時代を生き抜くための新しく強い組織を作り出すプロセスです。

まとめ

ビジョンを策定するヒントとして、新たな価値を生み出すイノベーション論を参考にしてみましょう。

イノベーション理論には、①新しい製品/サービスの創出②新しい生産方法の導入③新しい市場への参入④新しい資源の獲得⑤新しい組織の実現の5つの方向性があります。

さらに、イノベーション論をさらに社外と社内の2種類に分類できます。

まずは、②④⑤の対社内向けの施策から地盤を固めつつ、①と③の社外に対しても新たな価値提供方法を模索していく順番を推奨します。

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