2025年5月13日、株式会社船井総合研究所が主催する「100億企業化研究公開シンポジウム2025」が開催された。同社は2024年7月から、神戸大学大学院経営学研究科とともに「100億企業の成長要因と経営者の関係性」を追求する共同研究である「中小企業の価値創造に関する研究」を行っている。本シンポジウムでは、これまでの研究から判明した「100億企業化に向けた成長阻害要因や促進要因」について、理論と実務の双方から発表された。
100億企業「化」への取り組み
「100億企業」とは、国内にある約380万社のうち、売上高100億円を超える企業を指す。国内では、中小企業庁が2025年から売上100億円を目指す企業を支援する「100億宣言」を開始した。同社では2020年から「100億企業化プロジェクト(https://10billion.funaisoken.co.jp/)」を推進しており、中小企業の年間売上高を100億円規模へと成長させることを目指した支援を行っている。
同社によると、中小企業が100億円を超える売上を達成するには多くのハードルがあり、例えば既存のビジネスモデルからの変革の必要性、経営チーム体制の構築、コンフォートゾーン(現状維持)からの脱却などを挙げている。単一に解決できない課題を解決するための総合的な取り組みが必要であるとしている。
国や船井総研が「100億企業化」を推進する背景には、地域経済の縮小や人口減少がある。地域の衰退著しい昨今において、「地域から持続可能な成長を生み出すモデル」が強く求められており、「100億企業化」が地方創生の戦略的アプローチとして期待を集めている。売上100億円規模の企業は“経済の核”としての機能が備わり、地域の雇用や投資の呼び込み、若者の地元定着や新たな産業創出を促すことにつながることから、積極的な取り組みが行われている。
※「100億企業化」は株式会社船井総研ホールディングスの登録商標です。
プログラムレポート
「100億企業化に向けたパネルディスカッション 」
経済産業省 中小企業庁 課長補佐(総括)阪本裕子氏
神戸大学大学院経営学研究科 特命助教 久保雄一郎氏
株式会社船井総合研究所 代表取締役社長 真貝大介
本セッションでは、売上高100億円を目指す中小企業への支援施策の解説に続き、企業成長を実現するためのメカニズムについての発表が行われた。
中小企業が売上高100億円を目指すには、既存事業の精緻化、新たなビジネスモデルの創造、そしてその補強という3段階の成長戦略が重要だという。その中でも、既存のビジネスを精緻化することが企業成長の基盤となる。収益性の改善や非効率な業務プロセスを見直すなど、限られた経営資源を収益性の高い分野に集中させることで、持続可能な成長を実現につながるそうだ。
研究成果発表① 100億企業化に向けて両利きの経営を実現させる経営者とは
神戸大学大学院経営学研究科 准教授 塩谷剛氏
株式会社船井総合研究所 副本部長 下田寛之
両氏は、企業成長論点として「経営者の成長」が最重要であり経営者には成長段階に応じた課題認識と戦略が求められるという問題意識のもと、「両利きの経営」を実現することができる経営者の特徴についての研究成果が発表された。
両利き性を決定づける4種の要因から深化、探索、両利きと経営者の特徴タイプを3つに分類する。この際、売上成長率と営業利益をみると、両利きタイプはバランスの良い売上ができていることが研究で明らかとなった。ビジネスモデルの成功パターンの理解と自社への転換をする探求性を磨くことやネットワークでの発信や社内外でのアウトプットによる宣伝、発信力などが両利き経営の実現向上へのプロセスとなるだろう。
その中でも、両利き経営始めのステップとしては経営者自身の特性を認識し、両利き性を補完できるメンバーの適正な把握と配置が必要だそうだ。
研究成果発表② 100億企業化に向けて財務諸表から読み解く成長性と生産性
神戸大学大学院経営学研究科 准教授 安間陽加氏
株式会社船井総合研究所 シニアコンサルタント 谷翔太
中小企業の財務諸表から見られる特徴に、大企業と比較して利益をなるべく0に近づけ、それを維持しようとする傾向が見られるという。また、負債比率の伸びている会社は将来の売上成長も大きい傾向もあるそうだ。企業成長に必要な、固定資産などへの先行投資が必要となり、その資金調達のほとんどは負債となる。そのため、負債比率の上昇は先行投資による将来の売上増加が見込め、実際に多くのケースで売上の増加が見られた。
ビジネスモデルを磨き上げるのは前提として、投資効率の改善や誰だけ負債を大きくできるのか、どれだけ投資することができるのかかが財務戦略の鍵となる。
研究成果発表③ 100億企業化に向けて求められる経営管理体制
神戸大学大学院経営学研究科 准教授 佐久間智広氏
株式会社船井総合研究所 マネージングディレクター 鈴木圭介
本研究は、企業成長を実現する上で、経営管理体制の変化と経営者の特徴を明らかにすることを目的として行われた。企業が成長し組織が拡大していく中で、経営者自身が直接管理せず間接的な管理体制に切り替える必要が出てくる。その際によくある課題として、間接的な管理になるにつれ戦略や方針、目標理解伝達が浅くなってしまうことがある。
そこで、規模の拡大に伴う間接的管理の質を高めるための仕組み導入率を上げ、どの段階でどの様な仕組みを導入するのかを正しく吟味する必要あるという。具体的には30人を超えた段階で予算計算、経費承認、販売目標管理、行動規模、組織図を優先的に整備し50人を超えた段階でキャッシュフロー予測を優先する。
この経営管理は、その規模の段階で整備している会社が多い傾向にあり成長の前段階から優先順位を決め整備することが重要だ。長期計画において、どの段階で何を整備するかは成長を促進させる鍵となる。
【編集部の視点】1年後、5年後、10年後の未来を見据える重要性
今回取材した船井総研が進める「100億企業化プロジェクト」は、対象が現時点で売上数十億円以上の企業が中心である。その数は、決して多くなく、工場経営ニュースの読者層の中でも僅かだろう。ある種、他人事のように見えてしまう側面も否めない。しかし、今回のシンポジウムにおける研究成果には、100億企業を目指すか否か、あるいは企業規模の差に関係なくすべての企業に共通して重要だといえる学びも多く見られた。例えば、「両効きの経営」の実現を目指すような経営者の成長は、企業の規模に関係なく重要な視座である。
これらのヒントを自社に取り込むためにはどうすれば良いのだろうか。1つの方法として、理想的な未来(=ビジョン)が見えている状態である必要があるのではないか。新たな概念や考え方、あるいはテクノロジーなど、日々新しいものが生まれる現代において、自社にとって有益かどうかを判断して取捨選択することが求められる。その選択の判断基準の1つとしてのビジョンに照らし合わせる方法がある。また、未来を見据えるためには、まず自社の現状を把握する必要がある。自社分析のフレームワークにも様々な種類が存在するため、これらを活用することで多面的に自社の現状が見えてくる。その過程で自社のビジネスモデルや顧客の分析を通じ、ビジネスモデルの精緻化にも繋げることができる。
100億企業のような企業規模の成長をめざしていない企業においても、自社の未来を見据えた計画(例:短期〜中期〜長期経営計画)を策定することで、そのプロセスを通じて事業の改善が見込めれるのではないだろうか。
(執筆:金森 匡吾)
セミナー概要
開催日 5月13日(火) 13:00〜16:30
会 場 株式会社船井総合研究所 東京本社
サステナグローススクエア TOKYO セミナールーム
詳 細 https://www.funaisoken.co.jp/news/22286